1学期始業式校長講話

 新しい年度を迎えました。

 3年生の皆さんは、最終学年となります。それぞれ卒業後の目標をめざし、着実に努力を積み重ねていって下さい。

 また、2年生の皆さんは、あたらしく後輩の1年生を迎えます。先輩として、1年生の模範となるような学校生活を送って頂きたいと思います。

 先ほどの自己紹介のなかで申し上げましたように、私は大学で歴史学を専門に研究しておりますが、その歴史学では「変革の時代」あるいは「変革期」という言葉をよく使います。「変化の時代」あるいは「激動の時代」といってもよいでしょう。それまでの安定していた社会のあり方が根底から崩れ社会が混乱し、しかしその中から新しい秩序が生まれてくる時代のことです。世界中のどの地域・どの国にもこの変革期が幾度となく現れ、歴史が積み重ねられてきました。日本の歴史も例外ではありません。現在、NHKで放送されている大河ドラマ平清盛」は、貴族が権勢を誇った平安時代が,新しく興ってきた武士勢力の台頭によって、激しく突き動かされていった「変革の時代」であることは、みなさんご承知ですね。

 ところで、いま私たちが生きている、この21世紀初めという時代は、50年後あるいは100年後の日本人が自分たちの歴史を振り返ったときに、必ずやこの「変革の時代」だったと説明するのではないでしょうか。単なる経済状況の良し悪しといったことではなく、戦後日本の発展を支えてきた様々なシステムが機能不全に陥ってしまい、それに変わる新しいシステムを作ろうという悪戦苦闘が始まっています。いまニュースを賑わしている消費税増税の議論も、国民の生活を守る社会保険や年金といったシステムを、新しく組み立て直していくために必要なものだと言われています。

 少し話が難しくなってしまいましたが、いまいちど私の専門である歴史のことに話を戻します。中国の歴史でも、こうした変革の時代が幾度となく訪れました。その最初とされるのが、今から約2600年ほど前、西暦紀元前7世紀から紀元前3世紀ころまで続いた「春秋戦国時代」と呼ばれる時代です。その激動の時代に懸命に生きた人々のなかに、孔子という1人の教育者がいました。彼の死後、弟子たちの手によってその言動の記録がまとめられたため、歴史に彼の名が残されることになりました。その記録が『論語』という書物です。その一節に、

  子曰く。之を知るものは之を好む者に如かず、之を好む者は、これを楽しむ者に如かず。(『論語』雍也)

というものがあります。意味は、知識を得ること、それだけで満足するのではなく、そのことが好きにならなければならない、好きになるだけでなく、それを楽しまなければならない、といったところでしょうか。もう少し掘り下げてみると、この言葉は、激動の時代、変革の時代における「学びの姿勢」「学問に向き合う心構え」として理解することができると思います。

 いま、大学生の卒業後の就職がとても厳しい状況にあります。高校までに頑張って良い大学に入れば、良い就職ができて、定年まで無事勤めることができる,そんな安定した時代ではなくなってきています。つまり、「学歴」だけでは通用しない新しい社会が生まれてきているわけです。「学歴」に加えて「自分の実力を高めてくれる知識」が必要なのです。「死んだ知識ではなく、生きた知識」を身につけていかなければなりません。そのためには、知識を知識として頭にたたき込むだけではなく、学ぶことを好きになること、そして楽しんで学ぶこと、そうした学びの姿勢が大切になってくると言えましょう。

 あなたたちには、それぞれに残された中学生生活で、是非この学びの姿勢を身につけていってもらいたいと願っています。附中生であるあなたたちにはそれができるはずです。

  子曰く、之を知るものは之を好む者に如かず、之を好む者は、これを楽しむ者に如かず。

 これで私から皆さんへの最初の挨拶を終わります。